社宅使用契約書の書き方|借上社宅で従業員と結ぶ転貸借の必須条項と、規程・誓約書との使い分け
要約:借上社宅では、貸主と会社の契約に加えて、会社と従業員の契約も重なります。従業員との契約書に何を書くべきか迷う担当者は少なくありません。この記事では、民法・借地借家法・国税庁の資料で確認できる範囲をもとに、社宅使用契約書の必須条項を8つのステップで整理し、社宅規程・誓約書との使い分けも説明します。
借上社宅を導入すると、「従業員とは契約書を結ぶべきか」「規程があれば契約書は要らないのか」「誓約書とは何が違うのか」という質問を、総務担当者から受けることがあります。貸主(家主)との賃貸借契約書は用意しても、従業員との書面は口頭の説明で済ませている会社も少なくありません。
この記事では、社宅使用契約書の書き方を、民法・借地借家法・国税庁の資料など、公的機関の資料で確認できる範囲を土台に整理します。借上社宅で会社と従業員が結ぶ転貸借の必須条項を8つのステップで示し、社宅規程・誓約書との使い分けまで説明します。個別の契約書の文案づくりは、弁護士などの専門家に確認してください。
借上社宅では、貸主と会社の契約(原賃貸借)と、会社と従業員の契約(転貸借)の2つが重なります。民法612条は、賃借人は賃貸人の承諾がなければ賃借物を転貸できないと定めており、従業員に使わせる前提を貸主と共有しておくことが出発点です。
従業員との契約書には、使用料、使用期間と終了事由、禁止事項、費用負担、退去時の扱いを書きます。社宅規程は全員共通のルール、社宅使用契約書は個別の条件、誓約書は従業員の遵守の意思表示、と役割を分けると整理しやすくなります。
社宅使用契約書とは何か。借上社宅で2つの契約が重なる仕組み
社宅使用契約書の意味
社宅使用契約書とは、会社が従業員に社宅を使わせるときの条件を、会社と従業員の間で書面にしたもののことです。物件、使用料、使用期間、禁止事項、退去時の扱いなどを、入居する従業員ごとに記載します。
この記事で扱うのは、会社が貸主から借りた住宅を従業員に使わせる借上社宅です。会社が所有する社宅でも考え方は近いものの、貸主との契約が絡む点が借上社宅の特徴です。
貸主との契約と従業員との契約は別物
借上社宅では、次の2つの契約が同時に存在します。2つの契約は別々のものなので、どちらか一方の内容だけを見て判断すると、食い違いに気づけません。
| 比較項目 | 貸主と会社の契約(原賃貸借) | 会社と従業員の契約(転貸借) |
|---|---|---|
| 当事者 | 貸主(家主・管理会社)と会社 | 会社と従業員 |
| 書面の名称の例 | 賃貸借契約書 | 社宅使用契約書 |
| 主な内容 | 賃料、期間、解約、原状回復など | 使用料、使用期間、禁止事項、退去時の扱いなど |
| 関係する主な法令 | 民法、借地借家法 | 民法、借地借家法(適用の有無は個別の事情による)、労働基準法(賃金控除) |
民法613条1項は、賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負うと定めています。従業員は、貸主に対しても一定の範囲で義務を負う立場になるため、契約書の説明の際に、この点を伝えておくと誤解を防げます。
書面がなくても契約は成立するが、書面にする理由がある
民法601条は、賃貸借は、当事者の一方が物の使用および収益を相手方にさせることを約し、相手方が賃料を支払うことなどを約することによって効力を生ずると定めています。民法593条の使用貸借も、同じく約束によって効力を生ずる形です。いずれも、書面の作成が成立の条件にはなっていません。
ただし、書面がないと、使用料の額、退去の時期、修繕や原状回復の費用負担などが曖昧になり、後から会社と従業員の認識がずれやすくなります。国税庁のNo.2597は、使用人から一定額の家賃を受け取っていれば給与として課税されない場合があると説明しており、受け取る金額の根拠を残す意味でも、書面にしておく価値は大きいと考えられます。
借上社宅で、従業員と契約書は必要なのか
民法は書面を成立の条件にしていませんが、実務では結んでおくことをおすすめします。使用料、期間、終了事由、費用負担を書面で合意しておくことが、会社と従業員の双方を守ることにつながるためです。
賃貸借か使用貸借かで、書き方が少し変わる
従業員から使用料を受け取る社宅は、民法601条の賃貸借に近い形になります。一方、無償で使わせる場合は、民法593条の使用貸借にあたる可能性があります。名称は同じ「社宅使用契約書」でも、使用料の条項の有無や、返還の約束の書き方が変わります。
賃貸借か使用貸借か、また借地借家法の保護を受ける契約にあたるかどうかは、使用料の水準や使用の目的などの個別の事情によって判断が分かれる論点です。条文だけで一律には言えないため、迷う場合は弁護士に確認してください。この記事では、使用料を受け取る一般的な借上社宅を前提にします。
社宅使用契約書に入れる必須条項。8つのステップ
ここでは、社宅使用契約書に入れておきたい条項を、順番に整理します。民法などの条文で根拠が確認できるものは、その条文を示します。それ以外は、実務上の整理として示す内容です。
ステップ1:当事者と物件を特定する
会社名と従業員の氏名、社宅の所在地、部屋番号、間取り、駐車場の有無を書きます。貸主から借りている物件であれば、貸主の名称や原賃貸借契約の存在も記載しておくと、2つの契約の関係が分かります。
ステップ2:使用目的と用法を定める
民法616条は、借主が契約または目的物の性質によって定まった用法に従って使用・収益しなければならないとする594条1項を、賃貸借に準用しています。居住のみを目的とすること、同居できる家族の範囲、ペットや楽器などの扱いは、貸主との契約の内容にそろえて書きます。
ステップ3:使用料と徴収方法を書く
従業員から受け取る使用料の金額、支払日、支払方法を書きます。国税庁のNo.2597は、使用人から受け取っている家賃が賃貸料相当額の50パーセント以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は給与として課税されないと説明しています。賃貸料相当額は固定資産税の課税標準額などから計算するため、年度ごとに見直す旨も書いておくと運用しやすくなります。計算方法は、社宅の賃貸料相当額の計算方法で整理しています。
使用料を給与から差し引く場合は、労働基準法24条1項のただし書きにより、労働者の過半数で組織する労働組合、またはそれがなければ労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です。詳しくは、社宅の家賃は給与から天引きしてよい?を参照してください。
ステップ4:使用期間と終了事由を定める
社宅の使用が終わる場面を、あらかじめ書いておきます。例として挙げられるのは、転勤・異動で対象外になったとき、退職したとき、休職したとき、規程に定めた資格を失ったときです。そのうえで、終了の日から何日以内に明け渡すかを定めます。期限の決め方は、退職したら社宅はいつまでに出る?で整理しています。
ステップ5:禁止事項を定める
従業員が第三者に部屋を使わせること、会社の承諾のない同居、居住以外の用途への変更、無断の改造などを禁止事項として書きます。民法612条は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借物を転貸できず、違反したときは賃貸人が契約を解除できると定めています。会社と従業員の関係でも、同じ考え方で、承諾のない第三者の使用を禁じておくことが基本です。
ステップ6:費用負担と原状回復を書く
水道光熱費、管理費、駐車場代など、使用料以外の費用を誰がどこまで負担するかを書きます。費用の課税上の扱いは、社宅の水道光熱費・駐車場代・管理費を会社が負担すると課税される?で確認できます。
退去時の原状回復については、民法621条が、賃借人は賃借物を受け取った後に生じた損傷がある場合は、賃貸借が終了したときにその損傷を原状に復する義務を負うと定めています。ただし、通常の使用・収益によって生じた損耗や経年変化は除かれ、賃借人の責めに帰することができない事由による損傷も除かれます。従業員にどこまで負担を求めるかは、社宅の退去費用は誰が負担する?の考え方を参考に、契約書に具体的に書いてください。
なお、敷金は貸主に会社が差し入れるのが一般的です。民法622条の2第1項は、賃貸借が終了し賃貸物の返還を受けたときなどに、賃貸人が賃借人に敷金を返還しなければならないと定めています。従業員から会社が預かり金を受け取るかどうかは会社の方針次第で、受け取る場合は、金額と返還の条件を契約書に書きます。
ステップ7:届出・点検・緊急時の対応を書く
家族構成や緊急連絡先が変わったときの届出、修繕や点検のための立入り、火災・漏水・事故があったときの連絡先と手順を定めます。これらは法令で書き方が決まっているものではなく、実務上、トラブルを防ぐために入れておきたい項目です。
ステップ8:解除・損害賠償・協議の条項を書く
契約違反があったときに、会社が契約を解除できる場合と、その手続きを書きます。あわせて、損害を与えたときの賠償、契約に書かれていない事項が生じたときは協議することも定めておきます。規程の改定で使用料や退去条件が変わる場合の取扱いも、ここに書いておくと運用しやすくなります。
貸主との契約と、どう整合させるか
従業員との契約書だけを整えても、貸主との契約とずれていると、実際に問題が起きたときに会社が板挟みになります。確認すべき点は、貸主の承諾と、貸主との契約が終わるときの扱いの2つです。
従業員に使わせる前提を、貸主に伝えて承諾を得る
民法612条2項は、賃借人が承諾なく第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人が契約を解除できると定めています。借上社宅は、会社が借主で、実際に住むのは従業員ですから、貸主との契約書に社宅として従業員が居住することが明記されているか、または貸主の承諾を得ているかを、入居前に確認してください。
法人契約の意味や、従業員名義の契約との違いは、借上社宅はなぜ法人契約が前提なのかで整理しています。
貸主との契約が終わるとき、従業員の使用はどうなるか
貸主との契約が終了する場面ごとに、条文が定めていることを整理します。
| 終了の形 | 転借人(従業員)との関係 | 根拠 |
|---|---|---|
| 貸主と会社の合意解除 | 賃貸人は、合意解除をもって転借人に対抗できない。ただし、解除の当時に債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない | 民法613条3項 |
| 期間の満了または解約の申入れによる終了 | 賃貸人が転借人に通知しなければ、終了を転借人に対抗できない。通知をしたときは、通知の日から6か月を経過して転貸借が終了する | 借地借家法34条 |
つまり、会社が貸主と契約を解除・解約しても、従業員の使用が直ちに終わるとは限りません。会社の都合で貸主との契約を終える場合は、従業員との契約書にも、会社が相当の期間を置いて退去を求められることを書いておくと、調整しやすくなります。借地借家法の適用の有無は、貸主との契約の内容によって変わるため、個別の事案は弁護士に確認してください。
契約期間と更新の考え方
借地借家法26条1項は、建物の賃貸借に期間の定めがある場合に、当事者が期間の満了の1年前から6か月前までの間に、更新しない旨の通知などをしなかったときは、従前と同一の条件で契約を更新したものとみなすと定めています。同法29条1項は、期間を1年未満とする建物の賃貸借を、期間の定めがない賃貸借とみなします。貸主との契約がこれらの規定の適用を受ける場合、会社だけで退去の時期を決められるとは限りません。
従業員との契約は、貸主との契約期間に合わせる方法と、「在職中かつ規程の対象である間」のように、資格の継続を期間とする方法があります。後者を選ぶ場合でも、貸主との契約の更新や解約の時期は別に管理する必要があります。
社宅規程・社宅使用契約書・誓約書の使い分け
3つの書面は、役割が異なります。規程には全員共通のルール、契約書には個別の条件、誓約書には従業員が守ることの意思表示を、それぞれ書くと整理しやすくなります。以下は実務上の整理であり、法令が3つの書面の使い分けを定めているわけではありません。
| 比較項目 | 社宅規程 | 社宅使用契約書 | 誓約書 |
|---|---|---|---|
| 役割 | 全員に共通する制度のルール | 個別の物件・従業員ごとの条件 | 従業員がルールを守ることの意思表示 |
| 書く内容の例 | 入居資格、使用料の算定方法、退去事由 | 物件、使用料の金額、入居日、明渡し期限 | 規程の遵守、禁止事項を行わないこと、届出の約束 |
| 当事者の関係 | 会社が定める | 会社と従業員の双方が合意する | 従業員が会社に差し入れる |
| 変更の手続き | 規程の改定の手続き | 双方の合意(または契約書に定めた方法) | 再提出 |
規程の作り方は、社宅規程の作り方。就業規則の改定から労基署への届出までの実務手順で整理しています。規程と契約書の両方を用意する場合は、契約書に「社宅規程に従う」旨を書き、食い違ったときにどちらを優先するかも書いておくと、解釈の争いを避けやすくなります。
社宅使用契約書の条項構成例
ここまでの内容を、条項の並びの例としてまとめます。文言は、会社の規程や貸主との契約内容に合わせて、専門家と確認しながら決めてください。
- 目的・当事者・物件の表示
- 使用の目的と用法(居住のみ、同居者の範囲)
- 使用料と支払方法(給与控除の場合は労使協定に基づくこと)
- 使用期間と終了事由
- 禁止事項(転貸、無断の同居、用途変更、改造)
- 費用負担(光熱費、管理費、修繕、原状回復)
- 届出・点検・緊急時の対応
- 契約の解除、損害賠償、協議事項
- 規程との関係(規程に従うこと、規程が改定されたときの取扱い)
国土交通省が公表している「賃貸住宅標準契約書」は、使用が法令で義務づけられているものではありませんが、賃貸借契約をめぐる紛争を防ぐためのひな形として広く普及が図られています。同ページには社宅の転貸借を想定した書式は掲載されていないため、条項の項目を確認する際の参考にとどめるのが現実的です。
ネクストプレナーズの見解
借上社宅の導入時に、貸主との契約書だけを整えて、従業員との書面は規程の配布で済ませているケースが少なくないと感じます。使用料の金額や退去の期限は個人ごとに違うため、規程だけでは書ききれず、運用の段階で説明の食い違いが出やすいと考えます。
まず貸主との契約書で、社宅として従業員が居住する前提が確認できているかを見直し、そのうえで、個別条件を書いた社宅使用契約書を用意することをおすすめします。契約期間や解約の条項は、貸主との契約の内容とあらかじめ突き合わせて決めると、担当者の負担を減らせると考えます。
社宅使用契約書の確認チェックリスト
- 貸主との契約書に、社宅として従業員が居住することが明記されている、または貸主の承諾を得ている
- 従業員との契約書に、当事者・物件・使用目的が書かれている
- 使用料の金額と支払方法が、賃貸料相当額の50パーセント以上となるよう設計され、見直しの時期も決めている
- 給与から使用料を差し引く場合は、労使協定を結んでいる
- 使用期間、終了事由、明渡し期限が書かれている
- 転貸・無断同居などの禁止事項が書かれている
- 退去時の原状回復と費用負担の範囲が具体的に書かれている
- 貸主との契約の終了時期と、従業員との契約の終了条件に食い違いがない
- 社宅規程との関係(規程に従うこと)が書かれている
まとめ
借上社宅では、貸主と会社の契約、会社と従業員の契約の2つが重なります。民法は書面を成立の条件にしていませんが、使用料、使用期間、禁止事項、費用負担、退去時の扱いを書面にしておくことが、トラブルの予防になります。
書き方は、当事者と物件の特定から、解除・協議の条項まで、8つのステップで整理できます。貸主との契約の承諾と終了時期を確認し、規程・契約書・誓約書の役割を分けて運用してください。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の契約書の内容や法的な効力に対する助言ではありません。法令や通達は改正される場合があります。実際の契約書の作成にあたっては、最新の法令を確認し、弁護士・税理士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。