借上社宅はなぜ法人契約が前提なのか?個人契約の家賃を会社が払うと課税される理由と切り替えの注意点
要約:従業員名義で借りた賃貸住宅の家賃を会社が払っていると、社宅として扱えるのか迷う担当者は多くいます。国税庁のNo.2597は、入居者が直接契約している場合の家賃負担を社宅の貸与とは認めていません。この記事では、法人契約と個人契約の違い、賃貸料相当額の計算、切り替えの手順を解説します。
従業員が自分の名前で借りた賃貸住宅の家賃を、会社が毎月払っている。そんな運用をしている中小企業は少なくありません。ところが、これを「社宅」として扱い、従業員に課税されないようにすることはできるのか、と相談を受けることがあります。
この記事では、借上社宅はなぜ法人契約が前提になるのか、個人契約の家賃を会社が払うと何が起きるのかを、国税庁の資料で確認できる範囲で整理します。そのうえで、法人契約へ切り替えるときの手順と注意点を、人事・総務担当者向けに説明します。
国税庁のタックスアンサーNo.2597は、入居者が直接契約している場合の家賃負担を「社宅の貸与とは認められないので給与として課税されます」と説明しています。社員名義の契約の家賃を会社が払うと、社宅の扱いにはなりません。
会社が借り受けて従業員に貸与する形にし、従業員から賃貸料相当額の50パーセント以上の家賃を受け取っていれば、その差額は給与として課税されません。個別の事案の判断は、税理士や所轄の税務署に確認してください。
借上社宅とは何か。法人契約と個人契約の違い
借上社宅と法人契約の意味
借上社宅とは、会社が賃貸住宅を借り受け、その住宅を従業員に貸与する社宅のことです。会社が家主と賃貸借契約を結んで借主になる契約を、この記事では法人契約と呼びます。
国税庁のタックスアンサーNo.2597には、「借上社宅」という言葉は出てきません。同ページは、会社などが所有している社宅や寮を貸与する場合に限らず、「他から借りて貸与する場合」でも賃貸料相当額の計算が必要だと説明しています。この記事で扱う借上社宅は、この「他から借りて貸与する場合」にあたります。
個人契約とは、従業員が借主になる契約のこと
個人契約とは、従業員本人が借主として家主や管理会社と賃貸借契約を結ぶ契約のことです。家賃を誰が支払っているかは契約名義とは別の問題で、従業員が借主のまま、家賃を会社が負担している場合も個人契約にあたります。
No.2597が取り上げているのは、この「入居者が直接契約している場合の家賃負担」です。契約書の借主欄に誰の名前が書かれているかが、扱いを分ける最初の確認点になります。
個人契約の家賃を会社が払うと課税されるのか
結論から言うと、課税されます。国税庁のタックスアンサーNo.2597は、入居者が直接契約している場合の家賃負担について、社宅の貸与とは認められないので給与として課税されると説明しています。
No.2597が給与課税とする3つの場面
No.2597は、使用人に社宅や寮などを貸与した場合に給与として課税される範囲を、次の3つに分けて説明しています。
- 使用人に無償で貸与する場合:賃貸料相当額が給与として課税される
- 賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合:受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が給与として課税される。ただし、受け取っている家賃が賃貸料相当額の50パーセント以上であれば、差額は給与として課税されない
- 現金で支給される住宅手当や、入居者が直接契約している場合の家賃負担:社宅の貸与とは認められないので給与として課税される
個人契約の家賃を会社が払う運用は、3つ目に書かれている場面にあたります。1つ目と2つ目にある「賃貸料相当額の50パーセント以上を受け取れば課税されない」という基準は、会社が借り受けて貸与する社宅について書かれたもので、個人契約には使えません。
所得税基本通達も「使用者が貸与した住宅等」を前提にしている
所得税基本通達36-47は、使用者が使用人に対して貸与した住宅等について、使用人から実際に徴収している賃貸料の額が、通達36-45により計算した通常の賃貸料の額の50パーセント相当額以上である場合には、使用人が住宅等の貸与により受ける経済的利益はないものとする、と定めています。
通達の文言は、「使用者が使用人に対して貸与した住宅等」を出発点にしています。従業員が自分で借りた住宅に会社が家賃を払う形は、会社が貸与したものではないため、この通達の枠組みに入りにくいと考えられます。ただし、通達の文言から個別の事案がどう扱われるかまでは断定できないため、判断に迷う場合は税理士や税務署に確認してください。
現金の住宅手当と個人契約の家賃負担は同じ扱い
No.2597は、現金で支給される住宅手当と、入居者が直接契約している場合の家賃負担を、同じ項目にまとめて給与課税としています。会社が家賃を家主へ直接振り込んでいても、従業員が借主であれば、経済的な実態は住宅手当と近いものとして扱われる、と読めます。
住宅手当と借上社宅の違いは、借上社宅と住宅手当はどちらが有利かで、税・社会保険・実務負担の3つの軸から整理しています。住宅に関する福利厚生の全体像は、住宅に関連した福利厚生制度の種類と概要も参考にしてください。
法人契約にすれば課税されないのか。賃貸料相当額と50パーセント基準
法人契約にするだけでは、課税がなくなるわけではありません。会社が借り受けた住宅を貸与する場合でも、従業員から受け取る家賃が賃貸料相当額の50パーセント以上であることが、給与として課税されないための条件です。
賃貸料相当額の計算式
賃貸料相当額とは、社宅などを貸与するときに、課税関係を判断する基準となる月額の家賃のことです。No.2597は、次の(1)から(3)の合計額としています。
(1)その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2パーセント
(2)12円 ×(その建物の総床面積(平方メートル)÷ 3.3(平方メートル))
(3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22パーセント
実際の家賃の何割といった簡易な目安ではなく、固定資産税の課税標準額と床面積から計算する点が特徴です。他から借り受けた社宅を貸す場合は、貸主等から固定資産税の課税標準額などを確認することが必要だと、No.2597は説明しています。借上社宅では、家主や管理会社に課税標準額を問い合わせる作業が発生します。
国税庁の具体例で見る課税の範囲
No.2597は、賃貸料相当額が10,000円の社宅を使用人に貸与した場合を、次のように例示しています。
- 無償で貸与する場合:10,000円が給与として課税される
- 3,000円の家賃を受け取る場合:10,000円と3,000円との差額の7,000円が給与として課税される
- 6,000円の家賃を受け取る場合:6,000円は10,000円の50パーセント以上のため、差額の4,000円は給与として課税されない
この例は計算の考え方を示すための金額です。実際の賃貸料相当額は、物件ごとの固定資産税の課税標準額と総床面積で決まります。
法人契約・個人契約・住宅手当の違いを比較する
ここまでの内容を、国税庁のNo.2597に書かれている範囲で表に整理します。表にない論点は、税理士に確認してください。
| 比較項目 | 法人契約の借上社宅 | 個人契約で会社が家賃を負担 | 現金の住宅手当 |
|---|---|---|---|
| 契約の借主 | 会社 | 従業員本人 | 従業員本人 |
| No.2597での位置づけ | 他から借りて貸与する場合の社宅 | 入居者が直接契約している場合の家賃負担 | 現金で支給される住宅手当 |
| 給与課税の考え方 | 賃貸料相当額の50パーセント以上の家賃を受け取っていれば、差額は給与として課税されない | 社宅の貸与とは認められないので給与として課税される | 社宅の貸与とは認められないので給与として課税される |
| 会社側で必要な確認 | 賃貸料相当額の計算、固定資産税の課税標準額の確認 | 契約名義の確認、給与としての源泉徴収 | 支給条件と金額の規程化 |
個人契約から法人契約へ切り替える手順
個人契約の家賃を会社が負担している場合は、次の手順で切り替えを進めます。契約の名義変更ができるかどうかは物件ごとに異なるため、家主や管理会社との確認が欠かせません。
ステップ1:現在の契約名義と家賃の負担状況を洗い出す
対象者ごとに、契約書の借主が誰になっているか、会社が毎月いくら負担しているか、従業員の自己負担はいくらかを一覧にします。給与明細での扱い(住宅手当として支給しているか、家賃を直接払っているか)も、あわせて確認します。
ステップ2:給与課税の取扱いを税理士に確認する
現在の運用が、No.2597にある「入居者が直接契約している場合の家賃負担」にあたるかを、税理士と確認します。過去の分を含めて源泉所得税の処理をどうするかは、事案によって異なるため、自己判断で決めず、専門家と所轄の税務署に確認してください。
ステップ3:家主・管理会社に法人契約への切り替えを相談する
契約者を従業員から会社へ変更できるか、それとも現在の契約を解約して会社名義で新たに契約し直すかを、家主や管理会社に相談します。一般に、法人が借主になる場合は、会社に関する書類の提出や審査を求められることがあります。必要な書類や条件は物件ごとに違うため、早めに確認しておくと、切り替えの時期を決めやすくなります。
ステップ4:賃貸料相当額を計算し、本人負担額を決める
貸主等から建物と敷地の固定資産税の課税標準額、建物の総床面積を確認し、No.2597の計算式で賃貸料相当額を求めます。そのうえで、従業員から受け取る家賃を、賃貸料相当額の50パーセント以上になるように決めます。固定資産税の課税標準額は年度ごとに変わるため、毎年見直す手順も運用に組み込みます。
ステップ5:社宅規程に明記し、従業員へ説明する
対象者、本人負担額の決め方、契約や更新の手続き、退去時の費用負担などを、社宅規程に書きます。規程の作り方は、社宅規程の作り方。就業規則改定・労基署届出までの実務手順で整理しています。従業員には、社宅に切り替えると本人から家賃を受け取る形になることを、事前に説明しておくと混乱を防げます。
切り替えで起きやすい注意点
初期費用と契約のやり直しに伴う負担
現在の契約を解約して会社名義で契約し直す場合は、敷金・礼金・仲介手数料などの初期費用が新たに発生することがあります。誰がどこまで負担するかは、借上社宅の初期費用は誰が負担する?で整理しています。
家賃以外の費用の線引き
社宅にすると、家賃だけでなく、水道光熱費や駐車場代、管理費などをどう扱うかも決める必要があります。賃貸料相当額に含まれる費用と含まれない費用の考え方は、社宅の水道光熱費・駐車場代・管理費を会社が負担すると課税される?で確認できます。
社会保険料の計算で使う現物給与の価額は別の基準
所得税の賃貸料相当額と、社会保険料の計算で使う現物給与の価額は、別の基準で決まります。社会保険側の価額の考え方は、令和8年10月から社宅の現物給与価額が変わりましたで解説しています。切り替えの際は、所得税と社会保険の両方の影響を確認してください。
社宅代行を使う選択肢
法人契約への切り替えや、毎年の賃貸料相当額の計算、家主とのやり取りを社内だけで続けるのが難しい場合は、社宅代行を使う方法もあります。業務範囲や費用の考え方は、社宅代行とは何か。業務範囲・費用相場・選び方で整理しています。
ネクストプレナーズの見解
従業員名義の契約の家賃を会社が払っている中小企業では、「会社が家賃を払っているのだから社宅の扱いでよい」と考えられていることが少なくないと感じます。ただ、国税庁のNo.2597が基準にしているのは、会社が家賃を払っているかどうかではなく、会社が住宅を貸与しているかどうかだと考えます。
まず契約書の借主欄を確認し、従業員名義のままであれば、法人契約への切り替えか、住宅手当として給与課税を前提に運用するかを、早めに決めることをおすすめします。切り替えを選ぶ場合は、賃貸料相当額の計算と本人負担額の設計を、先に税理士と詰めておくと、従業員への説明がしやすくなると考えます。
法人契約への切り替えチェックリスト
- 対象者全員について、契約書の借主が会社か従業員かを確認している
- 従業員名義の契約で会社が家賃を負担している場合の課税の扱いを、税理士と確認している
- 家主・管理会社に、契約者の変更または再契約が可能かを確認している
- 貸主等から、建物・敷地の固定資産税の課税標準額と総床面積を確認している
- 賃貸料相当額を計算し、従業員から受け取る家賃を50パーセント以上に設定している
- 切り替えに伴う初期費用と、その負担区分を決めている
- 社宅規程に、対象者・本人負担額・手続きを明記し、従業員へ説明している
まとめ
従業員名義の契約の家賃を会社が払う運用は、国税庁のNo.2597で「社宅の貸与とは認められない」とされ、給与として課税されます。社宅として扱うには、会社が借り受けて従業員に貸与する法人契約の形にすることが前提です。
法人契約にしたうえで、従業員から賃貸料相当額の50パーセント以上の家賃を受け取れば、差額は給与として課税されません。切り替えの手順は、現状の洗い出し、税理士への確認、家主との調整、賃貸料相当額の計算、規程化の順に進めてください。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。税務の取扱いは改正される場合があります。実際の運用や規程の作成にあたっては、最新の法令・通達を確認し、税理士などの専門家にご相談ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。