借上社宅の仕訳と勘定科目は?会社負担分・従業員徴収分の処理と消費税の扱い
要約:借上社宅の家賃は何の勘定科目で処理するのか、従業員から受け取る負担額はどう仕訳するのか、消費税はかかるのか。経理担当者が迷いやすい点を、国税庁の資料で確認できる範囲と会社が決める範囲に分けて整理します。仮の金額による仕訳例と、給与から天引きするときの注意点も紹介します。
借上社宅を導入すると、経理担当者には「家賃はどの勘定科目で処理するのか」「従業員から受け取る負担額はどう仕訳するのか」「消費税はかかるのか」という実務の疑問がすぐに出てきます。毎月繰り返す処理だからこそ、最初に方針を決めておかないと、担当者が替わったときに処理がぶれてしまいます。
この記事では、借上社宅の仕訳と勘定科目について、国税庁の資料(令和8年4月1日現在法令等)で確認できる範囲と、会社が自分で決める範囲を切り分けて整理します。仕訳の金額は、説明のために置いた仮の数字です。
国税庁の資料は、借上社宅の家賃をどの勘定科目で処理するかを指定していません。科目は会社の経理方針で決め、毎期同じ方法で処理することが大切です。
消費税については、住宅の貸付けは非課税とされており、会社が家主へ払う家賃にも、従業員から受け取る社宅使用料にも消費税はかかりません。ただし、契約書で住宅用であることが分かることが条件です。
借上社宅の仕訳とは何か。最初に押さえる前提
会社が借りて従業員に貸す二段構えの取引
借上社宅の仕訳とは、会社が家主から借りた住宅を従業員に貸すときの、家賃の支払い、従業員からの負担額の受け取り、敷金などの初期費用を、帳簿に記録する処理のことです。
借上社宅には、会社と家主の間の賃貸借契約と、会社と従業員の間の社宅の貸与という、2つの関係があります。仕訳も、家主へ払う側と、従業員から受け取る側の両方を考える必要があります。
国税庁の資料は勘定科目を指定していない
国税庁のタックスアンサーNo.2597は、従業員に社宅を貸したときに給与として課税されるかどうかを説明するページで、使うべき勘定科目は示していません。消費税のNo.6226も、住宅の貸付けが非課税かどうかの説明にとどまります。
そのため、地代家賃にするか福利厚生費にするかといった科目の選び方は、会社の経理方針や顧問税理士との相談で決めることになります。以下の仕訳は、そうした方針を決めるための一例として読んでください。
借上社宅の勘定科目は何を使うのか
借上社宅で登場する主な勘定科目は、次の表のとおりです。科目名は、実務で使われる名称の例です。
| 場面 | 科目の例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 毎月の家賃 | 地代家賃、または福利厚生費 | どちらを使うかは会社が決める。決めたら毎期同じ科目で処理する |
| 敷金 | 敷金、差入保証金 | 返還を前提に預けるお金のため、費用ではなく資産として扱う例が一般的 |
| 礼金・仲介手数料 | 支払手数料、長期前払費用など | 礼金は繰延資産になる場合がある。仲介手数料は支払った事業年度の損金に算入できる(No.5460) |
| 従業員から受け取る社宅使用料 | 地代家賃の減額、または雑収入など | 国税庁の資料には指定がない。会社の方針で決める |
家賃は地代家賃か福利厚生費か
毎月の家賃は、地代家賃で処理する会社と、従業員向けの制度であることを重視して福利厚生費で処理する会社があります。どちらが正しいと国税庁が決めているわけではありません。
どちらを選ぶ場合でも、給与として課税されるかどうかの判定とは別の話だという点に注意してください。給与課税の判定は、従業員から受け取る家賃が賃貸料相当額の50パーセント以上かどうかで決まります(No.2597)。科目を福利厚生費にしたから課税されない、ということはありません。
従業員から受け取る社宅使用料の2通りの処理
従業員から受け取る社宅使用料は、会社が払う家賃を減らす扱いにする方法と、収益として計上する方法のどちらもあり得ます。国税庁の資料にはどちらも指定がありません。
- 地代家賃の減額とする:家賃の支払いと受け取りを相殺し、会社の実質負担額だけが費用として残る
- 雑収入などの収益とする:家賃は全額を費用に、受け取りは収益に、それぞれ総額で計上する
損益への最終的な影響は同じでも、総額で見たいか、純額で見たいかで選びます。後から科目を変えると期間比較がしにくくなるため、最初に決めて社内のマニュアルに残しておくことをおすすめします。
場面別の仕訳例。契約から退去まで
ここでは、次の仮の条件で仕訳の例を示します。
- 家主へ支払う家賃:月額100,000円
- 国税庁の計算式で求めた賃貸料相当額:60,000円(賃貸料相当額の計算は従業員社宅の賃貸料相当額の計算方法で解説しています)
- 従業員から徴収する社宅使用料:月額40,000円(賃貸料相当額の50パーセントである30,000円以上)
- 敷金:100,000円、仲介手数料:50,000円
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 契約時:敷金を家主へ払う | 敷金 100,000円 | 普通預金 100,000円 |
| 契約時:仲介手数料を払う | 支払手数料 50,000円 | 普通預金 50,000円 |
| 毎月:家主へ家賃を払う | 地代家賃 100,000円 | 普通預金 100,000円 |
| 毎月:給与から社宅使用料を天引きする(この取引に関する部分のみ) | 給料手当 40,000円 | 地代家賃 40,000円(または雑収入 40,000円) |
| 退去時:敷金が返還される | 普通預金(返還額) | 敷金 100,000円 |
この例では、会社の実質負担は、家賃100,000円から従業員の負担40,000円を引いた60,000円です。従業員の負担が賃貸料相当額の50パーセント以上のため、受け取っている家賃と賃貸料相当額の差額は、給与として課税されません(No.2597)。
天引きの仕訳は、給与計算全体の仕訳とあわせて見る必要があります。上の表は、社宅使用料に関する部分だけを取り出したものです。給与計算ソフトを使っている場合は、ソフトの設定と、仕訳の科目がそろっているかを確認してください。
敷金は、契約の終了時に精算して返還されることを前提とするお金です。退去時に原状回復費用が差し引かれる場合は、誰が負担するかに応じて、差し引かれた分の科目を決めます。礼金や仲介手数料の税務上の扱いは、借上社宅の初期費用は誰が負担する?で整理しています。
従業員の負担が賃貸料相当額の50パーセント未満のときはどう処理するか
従業員から受け取る家賃が賃貸料相当額の50パーセント未満のときは、賃貸料相当額と受け取っている家賃との差額が、給与として課税されます(No.2597)。
先ほどの仮の条件で、従業員から受け取る家賃を20,000円にしたとします。賃貸料相当額60,000円の50パーセントは30,000円ですので、20,000円はこれを下回ります。この場合、60,000円と20,000円の差額である40,000円が、給与として課税されます。
給与課税の対象になった金額は、給料手当に含めて源泉所得税の計算に反映させる必要があります。給与計算の設定と、社宅使用料の設定がずれていないかを、制度の開始時に確認しておくことが大切です。
借上社宅の家賃に消費税はかかるのか
借上社宅の家賃に消費税はかかりません。国税庁のタックスアンサーNo.6226は、住宅の貸付けは非課税とされると説明しており、住宅の範囲には社宅や寮が含まれると明記しています。
契約書で確認する2点
非課税となるのは、貸付けの契約で住宅用であることが明らかにされているもの、または契約で用途が明らかでなくても貸付けの状況から住宅用であることが明らかなものに限られます(No.6226)。
会社が借りて従業員に貸す場合については、同じページに、賃借人が住宅として転貸することが契約で明らかな場合は、住宅の貸付けとして非課税とされると書かれています。借上社宅の契約書で、次の2点を確認しておくとよいでしょう。
- 用途の欄に、居住用(住宅)であることが書かれているか
- 会社が従業員に転貸すること(社宅として使うこと)が、家主との間で分かる形になっているか
契約書の書きぶりによっては、事務所用として契約されていることもあります。その場合、住宅の貸付けとして非課税になるかどうかは、契約の内容や貸付けの状況をふまえた判断が必要になるため、税理士に確認してください。
会社が払う家賃は課税仕入れにならない
消費税法第2条第1項第12号は、課税仕入れを、相手方が行った場合に課税資産の譲渡等に当たるもの(輸出免税等に当たるものを除く)に限ると定めています。課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、消費税法第6条により消費税を課さないこととされる非課税取引以外のものです。住宅の貸付けは非課税のため、家主へ払う家賃は課税仕入れに当たらず、仕入税額控除の対象にならないと考えられます。
経理ソフトで家賃の税区分を設定するときは、課税ではなく非課税の区分になっているかを確認してください。仲介手数料や火災保険料などは、No.6226で説明している「家賃」の範囲には挙げられていません。これらの消費税の扱いは、契約の内容を見て税理士に確認することをおすすめします。
駐車場・共益費・敷金の扱い
No.6226には、住宅と一緒に貸し付けられる駐車場について、次のいずれにも当たる場合は非課税と書かれています。
- 一戸当たり1台分以上の駐車スペースが確保され、自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられている等の場合であること
- 家賃とは別に駐車場使用料等を収受していないこと
家賃とは別に駐車場代を払う契約の場合は、この条件には当たらないため、別に確認が必要です。共用部分の費用を入居者が応分に負担する共益費は、家賃に含まれます。一方、専有部分の電気・ガス・水道などの利用料は、非課税とされる家賃には含まれません。
敷金については、No.6225に、契約の終了により返還される敷金は資産の譲渡等の対価に当たらず、住宅に係る賃貸借契約の敷金や更新料などのうち返還しないものは非課税と書かれています。光熱費や駐車場代を会社が負担する場合の給与課税の考え方は、社宅の水道光熱費・駐車場代・管理費を会社が負担すると課税される?で整理しています。
従業員から受け取る社宅使用料の消費税
従業員から受け取る社宅使用料も、会社から従業員への住宅の貸付けとして、非課税になると考えられます。従業員との貸与の取り決め(社宅規程や貸与通知書など)にも、居住用であることを書いておくと、判断しやすくなります。
非課税売上高は、課税売上割合の計算で分母の総売上高に含まれます(No.6405)。そのため、社宅使用料を売上として受け取る場合、会社の仕入税額控除の計算に影響する可能性があります。影響があるかどうかは、会社の課税売上割合の水準によって変わるため、決算時に税理士に確認してください。
給与から社宅使用料を天引きするときの注意
社宅使用料を給与から差し引くときは、労働基準法第24条への対応が必要です。賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないとされており、賃金の一部を控除して支払えるのは、法令に別段の定めがある場合や、労働者の過半数で組織する労働組合(無い場合は労働者の過半数を代表する者)との書面による協定がある場合に限られます。
社宅使用料の天引きを始める前に、賃金控除に関する労使協定が整っているかを確認してください。協定の有無と控除する項目の範囲は、社会保険労務士など専門家にも確認しておくと安心です。社宅規程の作り方は、社宅規程の作り方。就業規則改定・労基署届出までの実務手順で整理しています。
毎月の経理処理の流れ。5つのステップ
毎月の運用は、次のステップで整理すると、担当者が替わっても同じ処理を続けられます。
ステップ1:契約書で用途と家賃を確認する
家主との契約書で、住宅用であること、家賃の金額、共益費や駐車場代の扱いを確認し、仕訳の元データとして整理します。
ステップ2:賃貸料相当額と従業員の負担額を確認する
固定資産税の課税標準額をもとに賃貸料相当額を計算し、従業員から徴収する額が、その50パーセント以上になっているかを確認します。
ステップ3:給与計算に社宅使用料を設定する
労使協定に基づく控除項目として、社宅使用料を給与計算に設定します。給与課税の対象となる差額がある場合は、その金額も別に設定します。
ステップ4:家賃の支払いと天引きの仕訳を同じ科目方針で処理する
家賃の支払いと従業員からの徴収を、会社で決めた科目方針に沿って仕訳します。途中で科目を変えないように、仕訳のルールをマニュアルに残します。
ステップ5:確認した根拠を記録として残す
賃貸料相当額の計算書、契約書、労使協定、税理士への確認結果をまとめて保管します。税務調査や担当者の交代のときに、根拠をすぐに示せます。
ネクストプレナーズの見解
借上社宅の仕訳でつまずくのは、勘定科目の選び方よりも、給与課税の判定と帳簿の処理が別の話であることが混ざってしまう点だと考えます。科目を福利厚生費にしても、従業員の負担額が賃貸料相当額の50パーセントを下回れば課税されます。
中小企業の実務では、まず契約書で住宅用であること、転貸が分かることを確認し、次に賃貸料相当額と徴収額を毎年見直す仕組みをつくることをおすすめします。そのうえで、勘定科目の方針は顧問税理士と相談して決め、一度決めた方法を続けられるよう、仕訳のルールを書面にしておくと運用が安定すると考えます。
借上社宅の仕訳を整えるときのチェックリスト
- 家主との契約書に、住宅用であることと、会社が従業員に転貸することが分かる形で書かれている
- 家賃の勘定科目(地代家賃または福利厚生費)を、会社として決めている
- 従業員から受け取る社宅使用料の処理方法(家賃の減額か、収益か)を決めている
- 従業員から徴収する額が、賃貸料相当額の50パーセント以上になっている
- 給与から天引きするために、労使協定が整っている
- 経理ソフトで、家賃の税区分が非課税になっている
- 敷金を資産として処理し、退去時の精算方法を決めている
- 賃貸料相当額の計算書と契約書、税理士への確認結果を保管している
まとめ
借上社宅の仕訳では、家主へ払う家賃と、従業員から受け取る社宅使用料の両方を、会社が決めた科目方針で一貫して処理することが基本です。国税庁の資料は勘定科目を指定していないため、地代家賃にするか福利厚生費にするかは、会社と税理士で決めます。
消費税については、住宅の貸付けは非課税とされており、借上社宅の家賃は、契約で住宅用であることが明らかなら、消費税がかかりません。従業員から徴収する額が賃貸料相当額の50パーセント未満の場合は、差額が給与として課税される点も、あわせて押さえておいてください。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する税務上・会計上の助言ではありません。勘定科目の選び方や仕訳の方法は、会社の会計方針や契約内容によって変わります。税務の取扱いは改正される場合があります。実際の経理処理にあたっては、最新の法令・通達を確認し、税理士などの専門家にご相談ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。