コラム

社宅はパート・有期社員も入居できる?同一労働同一賃金と入居資格の見直し方

公開日:2026年10月30日  / 執筆:株式会社ネクストプレナーズ(社宅制度コンサルティング実績300社超)

要約:パート・有期雇用社員から社宅への入居を求められたとき、雇用形態だけを理由に断ってよいかは、人事・総務担当者が迷いやすい論点です。厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインは、転勤者用社宅について、通常の労働者と同一の支給要件を満たす短時間・有期雇用労働者には同一の利用を認めなければならないとしています。この記事では、指針の文言、入居資格の考え方、社宅規程の見直し手順を整理します。

社宅制度を運用していると、パートタイム社員や契約社員から「自分も社宅に入れないか」と相談を受けることがあります。社宅規程の入居資格を「正社員のみ」と定めている会社では、雇用形態だけを理由に断ってよいのか、判断に迷う担当者も少なくありません。

この記事では、社宅のパート・有期雇用社員への適用について、厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインの文言と法律の条文をもとに、入居資格の考え方と社宅規程の見直し手順を、中小企業の人事・総務担当者向けに整理します。

この記事のポイント

厚生労働省の指針は、転勤者用社宅について、通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の利用を認めなければならないとしています。

入居資格は「正社員かどうか」ではなく、転勤の有無などの実態にもとづく要件で定め、その要件が実際に運用されているかを点検することが大切です。

パート・有期雇用社員は転勤者用社宅に入居できるのか

結論:雇用形態だけを理由に一律で対象外にはできない

パート・有期雇用社員であることだけを理由に、転勤者用社宅の対象から一律に外すことは、指針の考え方と合いません。通常の労働者と同じ支給要件を満たす短時間・有期雇用労働者には、同じ利用を認める必要があるためです。

一方で、指針が求めているのは「同一の支給要件を満たす場合に同一の利用を認めること」です。パート・有期雇用社員なら誰でも入居できるという意味ではありません。たとえば、転勤がなく地元で採用された短時間勤務のパート社員が、転勤を要件とする社宅の要件を満たさないことは、それだけで問題とされるものではありません。

指針の原文にはどう書かれているか

厚生労働省の「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第430号。以下「指針」といいます)の第3「短時間・有期雇用労働者」の「5 福利厚生」には、「(2) 転勤者用社宅」として、次のとおり定められています。

「通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならない。」

この指針は、令和8年4月28日の厚生労働省告示第203号による改正があり、同年10月1日から適用されています。本記事では、厚生労働省が公表している現行の文言を確認して書いています。

同一労働同一賃金とは何か。法律と指針の位置づけ

同一労働同一賃金の考え方

同一労働同一賃金とは、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間にある、不合理と認められる待遇の相違をなくすことを目指す考え方のことです。指針の第1「目的」には、雇用形態にかかわらない公正な待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて定めるものであると書かれています。

社宅は賃金そのものではありませんが、指針は基本給や手当だけでなく、福利厚生も対象にしています。指針の「5 福利厚生」には、福利厚生施設や転勤者用社宅などの項目が並んでいます。

法律の条文:第8条と第9条

根拠となる法律は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆるパートタイム・有期雇用労働法)です。

つまり、待遇の差は「待遇ごとに」、その待遇の性質と目的に照らして、不合理かどうかが判断されます。社宅についても、「正社員だから」「パートだから」という理由だけでは説明になりません。

いつから適用されているか

指針の適用開始は、令和2年(2020年)4月1日です。ただし、中小事業主については、短時間・有期雇用労働者に係る規定は令和3年(2021年)4月1日からとされていました。現在は、中小企業も対象です。

入居資格は何で判断するか。指針が挙げる支給要件の例

入居資格は、雇用形態ではなく、その社宅を設けている目的に沿った支給要件で判断します。指針は、支給要件の例として、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額の3つを挙げています。

支給要件の例考え方見直しで確認すること
転勤の有無転居を伴う配置の変更があるかどうかで入居資格を分けるパート・有期雇用社員にも、通常の労働者と同じ転居を伴う異動がある場合は、同じ入居資格で扱えているか
扶養家族の有無扶養する家族がいるかどうかで、社宅の広さや入居の可否を分ける雇用形態ではなく、家族の状況という同じ基準を使っているか
住宅の賃貸又は収入の額住居を借りる必要性や、収入の水準で入居の可否を分ける収入の基準を設ける場合、基準の金額が雇用形態の差を実質的に作っていないか

転勤の有無を要件にする場合の注意点

多くの会社で、転勤者用社宅の入居資格は「会社の命令による転居を伴う異動の対象者」と定められています。パート・有期雇用社員が地元採用で転勤の対象外であれば、この要件を満たさないため、入居を認めなくても指針に反しません。

注意が必要なのは、実態が要件と合っていない場合です。指針の「住宅手当であって、転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」の項目には、問題となる例として、転居を伴う配置の変更が見込まれることを理由に通常の労働者へ住宅手当を支給し、見込まれないことを理由に有期雇用労働者へは支給していないが、実態として通常の労働者にも転居を伴う配置の変更を命じていない場合が挙げられています。

これは住宅手当の例ですが、「転勤の有無」を理由とする社宅の入居資格を考えるうえでも、同じ視点が参考になると考えられます。規程上は「転勤がある者」と書いてあっても、実際には誰も転勤していないのであれば、その要件で待遇差を説明するのは難しくなります。

指針に書かれていない社宅や、派遣・再雇用の場合はどうなるか

転勤者用社宅以外の社宅(独身寮・福利厚生としての社宅)

指針に書かれているのは「転勤者用社宅」ですが、それ以外の社宅が自由というわけではありません。指針の第2「基本的な考え方」は、指針に原則となる考え方が示されていない待遇や、具体例に該当しない場合でも、待遇の相違が不合理と認められる可能性があると明記しています。

独身寮や、住居確保を目的とした社宅についても、法第8条にもとづき、その社宅の目的に照らして、パート・有期雇用社員だけを外す理由を説明できるかどうかが問われます。

定年後の再雇用社員の場合

定年後に有期雇用で継続雇用された社員も、パートタイム・有期雇用労働法の適用を受けます。指針の注では、定年後に継続雇用された者であることは、待遇の相違が不合理かどうかを判断するときに考慮される事情にはなりうるものの、そのことのみをもって直ちに不合理ではないとはいえないとされています。

派遣社員の場合

派遣労働者についても、指針の第4「派遣労働者」の「5 福利厚生」に、転勤者用社宅の項目があります。派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の支給要件を満たす派遣労働者には、同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならないとされています。自社が派遣先の場合は、派遣元との間で、この点の取扱いを確認しておく必要があります。

社宅規程の入居資格を見直す手順

入居資格の見直しは、次の順で進めると、整理しやすくなります。

  1. ステップ1:現行の入居資格と、実際の入居者の雇用区分を洗い出す。社宅規程の「対象者」の条文と、現在入居している人の雇用形態・転勤歴を一覧にします
  2. ステップ2:その社宅の目的を一文で書く。「転勤に伴う住居の確保」「遠方からの採用者の住居の支援」など、何のための社宅かを言葉にします
  3. ステップ3:入居資格を、雇用形態ではなく実態にもとづく要件で書き直す。転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額など、目的に結びつく要件を選びます
  4. ステップ4:要件と運用が合っているかを点検する。たとえば「転勤がある者」が要件なら、実際に転居を伴う異動が行われているかを確認します
  5. ステップ5:待遇の違いを説明できる形にしておく。パート・有期雇用労働者から求められたときに、違いの内容と理由を説明できるようにします
  6. ステップ6:規程を改定し、周知する。就業規則の改定が必要な場合の手続きは、別記事で整理しています

説明を求められたときの備え

パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項は、事業主は、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由などについて説明しなければならないと定めています。同条第3項は、この求めをしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています。

社宅の入居資格についても、「なぜ自分は対象外なのか」と問われたときに、規程の条文と運用の実態にもとづいて説明できるようにしておきます。

見直しは、通常の労働者の不利益にしない

指針の第2は、待遇の相違の解消にあたっては、通常の労働者の労働条件を不利益に変更することなく、短時間・有期雇用労働者の労働条件の改善を図ることが求められるとしています。やむを得ず就業規則を変更して不利益に変更する場合も、労働契約法第9条にもとづき原則として労働者との合意が必要で、合意なく変更する場合は第10条にもとづき合理的なものである必要があります。ただし指針は、基本的にこうした対応は望ましい対応とはいえないとしています。

「パートにも認めるとコストが増えるから、正社員の社宅も廃止する」という判断は、慎重に考える必要があります。

入居を認めるときに確認する実務

パート・有期雇用社員の入居を認める場合も、社宅使用料の設定や課税の考え方は、ほかの従業員と同じように整理します。従業員に社宅を貸したときの課税関係は、国税庁の「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」に説明されています。同ページによると、使用人から1か月当たり一定額の家賃(賃貸料相当額の50パーセント以上)を受け取っていれば、給与として課税されないとされています。

賃貸料相当額の計算方法は、社宅の賃貸料相当額の計算方法の記事で整理しています。また、社宅規程の作り方や就業規則の改定手順は、社宅規程の作り方の記事をご覧ください。

有期雇用の場合は、契約期間の終了や雇止めに伴って、社宅を退去してもらう場面が起こりえます。退去までの猶予期間などは、あらかじめ規程や契約に定めておくと、トラブルを避けやすくなります。退職時の考え方は退職した社員の社宅の明渡し期限の記事が参考になります。

ネクストプレナーズの見解

社宅の入居資格を「正社員のみ」と書いたまま、実態としては転勤のない正社員も入居している、という会社があるとします。この状態では、パート・有期雇用社員に説明するときに、規程の文言と運用が食い違い、説明が難しくなると考えます。

まずは、社宅の目的を「転勤に伴う住居の確保」など実態にもとづく言葉で整理し、入居資格をその目的に合わせて書き直すことをおすすめします。結果として、パート・有期雇用社員の入居の可否にかかわらず、規程と運用が一致していれば、従業員への説明もしやすくなると考えます。

社宅の入居資格でよくある失敗

まとめ

パート・有期雇用社員が転勤者用社宅に入居できるかどうかは、雇用形態ではなく、転勤の有無などの支給要件を満たすかどうかで判断します。指針は、通常の労働者と同一の支給要件を満たす短時間・有期雇用労働者には、同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならないとしています。

社宅規程の入居資格を、実態にもとづく要件に書き直し、規程と運用が一致しているかを点検することが、見直しの出発点です。判断に迷う場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。

ご利用にあたっての注意

この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的・税務上の助言ではありません。同一労働同一賃金に関する指針や法令は改正される場合があります。個別の判断にあたっては、最新の条文・公的資料を確認し、社会保険労務士・弁護士・税理士などの専門家や、都道府県労働局にご相談ください。

監修者

監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)

東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。

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出典

よくあるご質問

雇用形態だけを理由に一律で対象外にはできません。厚生労働省の指針は、通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす短時間・有期雇用労働者には、同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならないとしています。ただし、転勤がないなど要件を満たさない場合に入居を認めないこと自体は、それだけで問題とされるものではありません。
雇用形態だけで入居資格を区切っていると、待遇の違いを説明しにくくなります。パートタイム・有期雇用労働法第8条は、待遇の性質と目的に照らして不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。「転勤がある者」など、社宅の目的に沿った実態にもとづく要件に書き直し、運用と合っているかを点検することをおすすめします。
転勤の有無を入居要件としていて、実態としてもその要件で運用されているなら、転勤のないパート社員を対象外にしても、指針に反するとはされにくいと考えられます。注意が必要なのは、規程には「転勤者」と書いてあっても、実際には正社員にも転居を伴う異動がない場合です。要件と実態が合っているかを確認してください。
当てはまります。定年後に有期雇用で継続雇用された社員も、パートタイム・有期雇用労働法の適用を受けます。指針の注では、定年後の継続雇用であることのみをもって、直ちに待遇の相違が不合理ではないとはいえないとされています。
対象です。指針の第4「派遣労働者」にも転勤者用社宅の項目があり、派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の支給要件を満たす派遣労働者には、同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならないとされています。自社が派遣先の場合は、派遣元との間で取扱いを確認しておくと安心です。
パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項により、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、通常の労働者との待遇の相違の内容と理由などを説明する義務があります。規程の条文と運用の実態にもとづいて説明できるよう、あらかじめ担当部署と回答の内容を決めておいてください。

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