住宅手当は割増賃金の算定基礎に含めるのか|労基則21条の除外要件と一律支給が除外できない理由
要約:住宅手当は割増賃金の算定基礎から除外できる賃金の1つですが、「住宅手当」という名称なら必ず除外できるわけではありません。この記事では、労働基準法施行規則第21条の除外要件と、全員一律の支給が除外できない理由を、労働局の資料で整理します。残業代の計算ミスを防ぎたい人事・労務担当者向けに、仮の数値での影響額と、自社の住宅手当の判定手順も説明します。
住宅手当は、労働基準法施行規則第21条で割増賃金の基礎から除外できる賃金に挙げられています。ただし、除外できるのは「住宅に要する費用に応じて算定される手当」だけです。全員に一律の定額を支給している住宅手当は、名称が「住宅手当」でも、残業代の計算に含める必要があります。
住宅手当は割増賃金の算定基礎に含めるのか
結論から言うと、住宅手当の支給方法によって異なります。家賃やローンの額に応じて金額が決まる住宅手当は算定基礎から除外でき、家賃などに関係なく一律の金額を支給する住宅手当は除外できません。
割増賃金の算定基礎とは
割増賃金の算定基礎とは、残業代(割増賃金)の1時間あたりの単価を計算するときに、土台となる賃金のことです。月給制の場合は、基本給だけでなく各種の手当も含めた月給を、1か月の所定労働時間で割って、1時間あたりの賃金額を出します。
厚生労働省と労働局のリーフレットでは、割増賃金の額は「1時間あたりの賃金額 × 時間外労働などを行わせた時間数 × 割増賃金率」で算定すると説明されています。算定基礎に入れる手当が増えれば、1時間あたりの単価が上がり、残業代も増えます。
除外できる賃金は7種類に限られている
労働基準法第37条第5項は、家族手当、通勤手当、そのほか厚生労働省令で定める賃金を、割増賃金の基礎となる賃金に算入しないと定めています。省令にあたる労働基準法施行規則第21条は、次の賃金を挙げています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
この7種類は例示ではなく、限定的に列挙されたものです。これらに当たらない賃金は、すべて算定基礎に入れる必要があります。たとえば、役職手当や資格手当、皆勤手当は、7種類にないため含めて計算します。
除外できる住宅手当の条件は何か
除外できる住宅手当は、住宅に要する費用に応じて算定される手当に限られます。労働局の資料では、「住宅手当」という名称の手当であれば、すべて除外できるというわけではないと明記されています。
「住宅に要する費用」と「費用に応じた算定」の意味
埼玉労働局の「労働条件管理ハンドブック」(2018年版)は、除外できる住宅手当の考え方を、次のように整理しています。
- 住宅手当は、手当の名称にかかわらず、実質によって取り扱う
- 住宅に要する費用とは、賃貸住宅では居住に必要な住宅の賃借のための費用、持ち家では居住に必要な住宅の購入・管理などのための費用
- 費用に応じた算定とは、費用に定率を乗じた額とすること、または、費用を段階的に区分して費用が増えるにしたがって額を多くすること
- 住宅に要する費用以外の費用に応じて算定される手当や、住宅に要する費用に関わらず一律に定額で支給される手当は、除外される住宅手当に当たらない
除外できる例と除外できない例
同じ資料に挙げられている具体例を、表にまとめます。
| 区分 | 支給のしかた | 具体例 |
|---|---|---|
| 除外できる | 住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給する | 賃貸住宅の居住者には家賃の一定割合、持ち家の居住者にはローン月額の一定割合を支給する |
| 除外できる | 住宅に要する費用を段階的に区分し、費用が増えるにしたがって額を多くする | 家賃月額が5万円から10万円の人には2万円、10万円を超える人には3万円を支給する |
| 除外できない | 住宅の形態ごとに一律に定額で支給する | 賃貸住宅の居住者には2万円、持ち家の居住者には1万円を支給する |
| 除外できない | 住宅以外の要素に応じて定率または定額で支給する | 扶養家族がいる人には2万円、いない人には1万円を支給する |
| 除外できない | 全員に一律に定額で支給する | 家賃やローンの額に関係なく、全員に月2万円を支給する |
全員一律の住宅手当はなぜ除外できないのか
全員一律の住宅手当が除外できないのは、住宅に要する費用との関係がなく、「住宅に要する費用に応じて算定される手当」とはいえないためです。除外が認められるのは、労働との関係が薄く、個人的な事情に基づいて支給される手当だという考え方によります。
厚生労働省と労働局のリーフレットは、①から⑦の賃金について、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることなどから、基礎となる賃金から除外できると説明しています。個人の家賃負担の大小に応じて支給額が変わる手当は、個人的事情に基づく手当と考えられます。一方、全員に同じ額を払う手当は、個人の住宅費の事情と結びついておらず、資料では、除外される住宅手当に当たらないと整理されています。
家族手当・通勤手当でも同じ考え方が使われる
この考え方は、住宅手当だけに当てはまるものではありません。リーフレットでは、家族手当は扶養家族の人数に応じて支給するもの、通勤手当は通勤に要する費用や距離に応じて支給するものだけが除外でき、人数や距離に関係なく一律に支給するものは除外できないと、同じ形で整理されています。
一律の住宅手当を含めると残業代はいくら変わるか
一律の住宅手当を算定基礎に含めると、1時間あたりの単価は手当の額に応じて上がります。次の数値は、考え方を示すための仮の例です。
条件:基本給250,000円、全員一律の住宅手当20,000円、1か月の平均所定労働時間170時間、時間外労働が月20時間、割増賃金率25%(仮の数値)
住宅手当を含める場合:(250,000円+20,000円)÷170時間×1.25=約1,985円(1時間あたりの割増賃金)
住宅手当を含めない場合:250,000円÷170時間×1.25=約1,838円(1時間あたりの割増賃金)
差額:1時間あたり約147円。月20時間の時間外労働では、1人あたり月に約2,941円
この差額は1人あたり月に約2,941円で、年に直すと約3万5千円です。1人ずつの金額は小さく見えても、対象となる従業員が多い会社や、時間外労働が長い会社では、合計額が大きくなります。なお、1か月に60時間を超える時間外労働の割増賃金率は5割以上(労働基準法第37条第1項ただし書)、休日労働は3割5分以上、深夜労働は2割5分以上と、割増賃金率は労働の種類によって異なります。
未払いがあった場合の時効は
賃金の請求権の時効は、労働基準法第115条で5年と定められていますが、同法の附則第143条第3項により、当分の間は3年間とされています(退職手当を除く)。算定基礎の扱いに誤りがあった場合、さかのぼって請求される可能性がある期間は、この範囲で考える必要があります。具体的な対応は、社会保険労務士や労働基準監督署に確認してください。
自社の住宅手当を判定する手順は
自社の住宅手当が除外できるかどうかは、次の4ステップで確認できます。賃金規程に書かれた支給のルールを見て、名称ではなく計算方法で判断します。
ステップ1:賃金規程の住宅手当の条文を確認する
賃金規程や雇用契約書で、住宅手当の支給条件と金額の決め方を確認します。「月額2万円を支給する」とだけ書かれていれば、一律定額の可能性が高くなります。
ステップ2:金額が何で決まっているかを確認する
金額が、家賃やローンの額に応じて決まっているかを確認します。家賃の一定割合なのか、家賃の段階ごとに額が上がるのか、それとも家賃と無関係に固定されているのかを見分けます。
ステップ3:除外できる例と除外できない例に照らして判定する
前の節の表と照らし合わせます。賃貸と持ち家で金額を分けているだけの場合や、扶養家族の有無で金額を分けている場合は、除外できない例にあたります。判断に迷う場合は、自己判断で除外せず、算定基礎に含めて計算するほうが安全です。
ステップ4:給与計算の設定を見直す
除外できない手当を、給与計算システムの割増賃金の算定基礎から外していないかを確認します。手当の種類ごとに算定基礎へ含めるかどうかを設定している場合は、住宅手当の設定が実際の支給方法に合っているかも確認してください。
一律の住宅手当をどう見直すか
一律の住宅手当が除外できないと分かった場合は、大きく2つの選択肢があります。
- 算定基礎に含めて計算する:現在の支給方法は変えず、割増賃金の単価に住宅手当を含める。従業員の賃金の額は変わらないが、残業代の総額は増える
- 家賃に応じた支給方法に変える:家賃の一定割合や、家賃の段階に応じた額に設計を改める。除外できる要件を満たせるが、従業員ごとの支給額が変わる場合がある
どちらを選ぶ場合でも、賃金規程の改定が必要になります。支給方法の変更で従業員の手取りが減る場合は、従業員への説明や同意の取り方に注意が必要です。手順は社宅規程の作り方。就業規則改定・労基署届出までの実務手順が参考になります。
住宅手当の水準そのものを検討する場合は、住宅手当の相場はいくらか。厚生労働省の就労条件総合調査で見る平均支給額で、平均支給額や支給企業の割合を確認できます。住宅手当と借上社宅の違いは、借上社宅と住宅手当はどちらが有利かで整理しています。
ネクストプレナーズの見解
住宅手当は、金額が小さいぶん、算定基礎の扱いが後回しになりやすい手当だと感じます。「住宅手当は除外できる」という認識だけが先行し、一律支給のまま給与計算システムで除外設定にしている会社は少なくないと考えます。
まず、賃金規程を見て、住宅手当が家賃などに応じた金額になっているかを確認することをおすすめします。一律支給であれば、除外しない前提で計算を見直すのが、後から請求を受けるリスクを減らす近道です。そのうえで、住宅手当の目的が「家賃負担の軽減」であるなら、家賃に応じた設計にしたり、社宅制度と組み合わせたりして、目的に合った支給方法を選ぶと、従業員への説明もしやすくなると考えます。
住宅手当の算定基礎を確認するチェックリスト
- 賃金規程で、住宅手当の金額の決め方を確認している
- 金額が家賃やローンの額に応じて決まっているかを確認している
- 全員一律、住宅の形態別の一律、扶養家族の有無別の金額になっていないかを確認している
- 給与計算システムの割増賃金の算定基礎の設定を確認している
- 除外できない場合に、算定基礎に含めて計算している
- 過去の残業代の計算に誤りがないか、社会保険労務士などに確認している
- 支給方法を変える場合の賃金規程の改定手順を確認している
まとめ
住宅手当は、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金の1つですが、除外できるのは、家賃やローンの額に応じて算定される手当だけです。全員一律の定額、住宅の形態ごとの一律の定額、扶養家族の有無で決まる額は、除外できません。
自社の住宅手当は、名称ではなく、金額の決め方で判断してください。一律支給であれば算定基礎に含めて計算し、必要に応じて支給方法を見直します。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する労務上の助言ではありません。法令や通達、運用は変更される場合があります。実際の運用にあたっては、最新の資料を確認し、社会保険労務士や労働基準監督署などの専門家にご相談ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。