住宅の現物給与価額の改正(令和8年10月)は標準報酬月額・社会保険料にどう影響するか
要約:令和8年10月1日から、社会保険における住宅の現物給与価額が、畳1畳あたりの単価から総床面積1平方メートルあたりの単価に変わりました。社宅や寮を貸与している従業員がいる会社では、報酬の換算額が変わり、随時改定や社会保険料に影響する場合があります。本記事では、厚生労働省・日本年金機構の資料に基づき、改正の仕組みと実務で確認したいポイントを整理します。
令和8年10月1日から、社会保険(健康保険・厚生年金保険)における住宅の現物給与価額の改正が始まりました。社宅や寮を会社が貸与している従業員がいる会社では、報酬の換算額が変わるため、標準報酬月額の見直し(随時改定)や社会保険料に影響が出る場合があります。
この記事では、厚生労働省と日本年金機構が公表している一次資料をもとに、改正の内容と、給与計算・社会保険を担当する方が実務で確認したいポイントを順に整理します。
改正の要点:何が、いつ変わったのか
賃金の全部または一部が通貨以外のもので支払われる場合を「現物給与」といい、その価額は厚生労働大臣が定めることとされています。令和8年度の改正では、食事と住宅で施行日が分かれています。
- 食事の現物給与価額:令和8年4月1日から変更
- 住宅の現物給与価額:令和8年10月1日から変更
日本年金機構も、食事は令和8年4月1日から、住宅は価額と算出方法が令和8年10月1日から改正されると案内しています。住宅については、価額の金額だけでなく、計算のしかたそのものが変わった点に注意が必要です。
単価の単位が「畳」から「平方メートル」へ
厚生労働省の資料によると、住宅に係る価額の単価は、居住面積1畳あたりの価額から、総面積1平方メートルあたりの価額に変更されました。これも令和8年10月1日からの変更です。
面積の数え方はどう変わったか
改正前(令和8年9月30日まで)は、居間・茶の間・寝室・客間・書斎・応接間・仏間・食事室など、居住用の室を対象としていました。玄関、台所、トイレ、浴室、廊下、農家の土間などの居住用ではない室や、店・事務室・旅館の客室などの営業用の室は含めませんでした。
改正後(令和8年10月1日から)は、居住する住宅の床面積の合計(総面積)が対象です。ただし、別棟の物置・車庫の面積や、共同で使用している部分の面積は除きます。
| 項目 | 令和8年9月30日まで | 令和8年10月1日から |
|---|---|---|
| 単価の単位 | 居住面積1畳あたり | 総面積1平方メートルあたり |
| 対象となる面積 | 居住用の室(居間・寝室など) | 居住する住宅の床面積の合計(総面積) |
| 玄関・台所・トイレ・浴室・廊下 | 含めない | 総面積に含まれる |
| 別棟の物置・車庫、共同使用部分 | 対象外 | 対象外 |
つまり、同じ住宅でも対象面積が広がり、単価の単位も変わるため、旧基準と新基準の金額を単純に比べても意味がありません。新基準では、住宅ごとに総面積を確認して計算し直す必要があります。
食事の現物給与との違い
食事については、令和8年3月17日付けの通知で、告示額の3分の2以上に相当する額を食費として徴収している場合には、現物による食事の供与はないものとして取り扱うとされています。住宅の改正は、この食事の取扱いとは別の話です。社宅の担当者は、食事と住宅で施行日も計算方法も異なる点を切り分けて確認してください。
標準報酬月額と社会保険料への影響の仕組み
現物給与は「報酬」に合算される
日本年金機構は、現物で支給されるものがある場合は、その現物を通貨に換算して報酬に合算したうえで、保険料額算定の基礎となる標準報酬月額を求めると説明しています。食事と住宅は、厚生労働大臣が定める価額で換算します。
また、標準報酬月額の対象となる報酬には、現金だけでなく、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものも含まれます。社宅の貸与は、この「住宅」の現物給与にあたります。
したがって、住宅の現物給与価額が変われば、対象の従業員の報酬の換算額が変わり、標準報酬月額が変わる可能性があります。標準報酬月額が変われば、健康保険料・厚生年金保険料の額にも影響します。
価額の改正は随時改定の対象になる
厚生労働省が掲載している「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」には、告示改正による単価の変更は固定的賃金の変動に該当することから、随時改定の対象となる、という趣旨の記載があります。ただし、健康保険組合が規約で別段の定めをしている場合は、その規約の定めによる価額の変更がなければ、随時改定の対象にはならないとされています。
つまり、厚生年金保険の事務取扱いでは、住宅の価額改正は、昇給や降給と同じように固定的賃金の変動として扱われます。一方、健康保険組合に加入している会社は、組合の規約も確認する必要があります。
随時改定の3つの要件
日本年金機構が示す随時改定の要件は、次の3つです。
- 昇給や降給などにより、固定的賃金に変動があったこと
- 変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額から算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたこと
- 変動月以後引き続く3か月の報酬の支払基礎日数が、いずれも17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であること
価額が改正されたというだけで、全員が随時改定になるわけではありません。上の3つの要件をすべて満たした場合に、月額変更届の提出が必要になります。改正による報酬の増減が小さく、標準報酬月額の等級差が2等級未満にとどまる従業員は、対象外です。
定時決定との関係
定時決定は、毎年7月1日現在の被保険者について、4月・5月・6月の3か月の報酬を平均して標準報酬月額を決め、その年の9月から翌年8月まで使う仕組みです。令和8年の定時決定は4月から6月の報酬が対象のため、令和8年10月の住宅の改正前の価額で換算された報酬をもとに決まっています。
そのため、改正の影響は、まず随時改定の要件を満たす従業員に表れ、それ以外の従業員は、新しい価額で換算された報酬が4月から6月に含まれる翌年以降の定時決定で反映される、という流れになります。
どれくらい変わるのか:試算例
厚生労働省の資料に掲載された令和8年度の価額のうち、令和8年10月1日からの1人1か月あたりの住宅の価額(総床面積1平方メートルにつき)は、東京都が1,330円、大阪府が820円、北海道が530円です。旧基準(畳1畳につき)の価額は、東京都が2,830円、大阪府が1,780円、北海道が1,110円でした。
次の表は、これらの価額を使った仮の試算です。居住室が12畳、総面積が40平方メートルの住宅に、被保険者1人が住んでいると仮定しています。実際の住宅の面積や間取りによって金額は変わります。
| 都道府県 | 旧基準(12畳) | 新基準(40平方メートル) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 2,830円×12畳=33,960円 | 1,330円×40平方メートル=53,200円 | +19,240円 |
| 大阪府 | 1,780円×12畳=21,360円 | 820円×40平方メートル=32,800円 | +11,440円 |
| 北海道 | 1,110円×12畳=13,320円 | 530円×40平方メートル=21,200円 | +7,880円 |
この仮の条件では、いずれも新基準のほうが大きな金額になります。ただし、これは対象面積が広がることの影響を示す例です。居住室が広い住宅や、総面積に占める居住室の割合が高い住宅では、差額の大きさは変わります。計算の結果に1円未満の端数が生じた場合は、切り捨てて計算します。
注意:上の試算は、告示された価額に面積を掛けた仮の金額です。実際に報酬へ合算される額や、標準報酬月額の等級が何等級動くかは、従業員ごとの報酬額によって異なります。個別の判断は、年金事務所または加入している保険者に確認してください。
実務で迷いやすいポイント
同居者がいる場合は総面積を人数で割る
令和8年3月17日付けの通知では、同居世帯がある場合には、総面積を被保険者数で除して一人分の価額を算定することとされています。たとえば、総面積が60平方メートルの住宅に、被保険者である夫婦が住んでいる場合は、1人あたりの面積を30平方メートルとして計算します。
アパート・マンションは専用部分だけを数える
同じ通知では、アパートやマンションなどの共同住宅について、共同で使用している廊下や階段などの共用部分の面積を除いた、それぞれの住宅の専用部分の床面積とすることが示されています。厚生労働省の資料でも、バルコニーは対象の図に含まれていません。広さの確認には、賃貸借契約書や図面の専有面積を使うと、根拠を示しやすくなります。
適用する価額は事業所の所在地で決まる
日本年金機構のよくある質問では、勤務地がA県で社宅がB県にある場合、被保険者の人事・労務・給与の管理がされている事業所が所在する地域の価額で計算するため、A県の価額を使うとされています。社宅の所在地ではなく、給与を管理している事業所の所在地が基準です。
社宅使用料を徴収している場合
従業員から社宅使用料を徴収している場合に、報酬へ合算する額をどう計算するかは、会社の運用や加入している保険者の取扱いによって確認が必要です。この記事では告示された価額と面積の計算に絞って説明していますので、徴収している社宅使用料がある場合は、計算方法を年金事務所、協会けんぽ、または健康保険組合の案内で確認してください。
労働保険の取扱い
令和8年3月17日付けの通知は、社会保険だけでなく労働保険にも適用される取扱いとして示されています。労働保険料の算定でも、住宅の現物給与は告示額で評価する扱いが示されていますので、年度更新の際に、賃金総額に含める住宅の評価額も新しい基準で確認してください。
税務の取扱いとは別に考える
ここで説明した現物給与の価額は、社会保険の標準報酬月額や保険料を計算するための基準です。従業員が社宅に住む場合の所得税の取扱い(賃貸料相当額)は、国税庁が定める別の計算方法によります。
社会保険の改正があったからといって、所得税の計算が同時に変わるわけではありません。社宅制度を運用する際は、社会保険と税務を別々の基準で確認する必要があります。
対応チェックリスト
令和8年10月1日以降の給与計算に向けて、次の項目を順に確認しておくと、抜け漏れを防げます。
- 社宅・寮を貸与している従業員を一覧にし、現物給与として報酬に算入している対象者を確認する
- 対象者の住宅ごとに、総面積(専有面積)を契約書や図面で確認する
- 総面積に含める部分と、除く部分(別棟の物置・車庫、共用部分)を整理する
- 同居している被保険者がいる場合は、人数で割った面積を使う
- 事業所の所在地の都道府県の価額(総床面積1平方メートルにつき)を、厚生労働省の資料で確認する
- 給与計算ソフトの設定が新基準に更新されているか確認する
- 随時改定の3つの要件に当てはまる従業員がいないか確認し、該当する場合は月額変更届を準備する
- 健康保険組合に加入している場合は、組合の規約や案内を確認する
- 労働保険の年度更新で使う住宅の評価額も、新基準で見直す
まとめ
令和8年10月1日からの住宅の現物給与価額の改正は、金額が変わるだけでなく、単価が畳から総床面積の平方メートルに変わり、対象面積が居住用の室から総面積へ広がる点が特徴です。現物給与は報酬に合算されるため、標準報酬月額と社会保険料に影響し、随時改定の対象になる場合があります。
まずは、社宅に住む従業員の住宅の総面積を確認し、事業所の所在地の価額で計算し直すことから始めてください。個別の判断に迷う場合は、年金事務所または加入している保険者に確認すると安心です。